


奈良県斑鳩町、のどかな田園地帯に位置する法起寺(ほっきじ、ほうきじ)。
太古の昔から斑鳩の里に佇む三重塔を詳しくご紹介します!
法起寺はこんなところ
法起寺の創建については『聖徳太子伝私記』に記録する三重塔にあった露盤銘により窺い知ることができます。それによると、推古三十(622)年二月二十二日、聖徳太子は薨去に際して岡本宮を改めて寺とすることを長子の山背大兄王に命じます。その後、福亮僧正が弥勒像と金堂を造立し、天武十四(685)年には恵施僧正が宝塔の建立を発願、慶雲三(706)年三月に塔の路盤を作ったと伝わります。
『正倉院文書』や『日本霊異記』にも法起寺に関する記述が見え、奈良時代に隆盛を極め、平安時代には寺勢に陰りが見られたものの、鎌倉時代に講堂や三重塔が修復されるなど一度再興がなされました。しかし、室町時代以降は再び衰微し、江戸時代のはじめごろには三重塔を残すのみであったといいます。
その荒廃を憂いた真政圓忍とその弟子たちは三重塔の修復を皮切りに、講堂と聖天堂を建立し、現在の寺観を整えました。
(お寺発行の栞より)

法起寺は法隆寺から北東へ1.5kmほどの斑鳩町岡本に所在し、岡本寺や岡本尼寺、池後寺、池後尼寺とも呼ばれます。推古十四(606)年に聖徳太子が法華経を講説したという岡本宮を寺へ改めたものとされ、法隆寺や四天王寺、中宮寺などとともに太子建立七カ寺の一つに数えられます。
境内の発掘庁瀬の結果、岡本宮と見られる以降の一部が確認されており、同時に注文を入って右に三重塔、左に金堂、中央正面奥に講堂があり、回廊は中門左右から堂塔を囲み、講堂の左右に接続する様式の伽藍であったと推測されています。
境内を散策する
長閑な田園地帯に佇む伽藍

境内地は約80m四方のコンパクトなお寺ですが、遠くからでも眺めることができる三重塔は斑鳩の里の象徴的な建築のひとつです。

境内の北側に講堂が南面して立ち、その右前方に三重塔、左前方に聖天堂を配します。


法起寺は江戸時代に再興され、講堂や聖天堂はそのときに建立されたものです。ちなみに、創建当時の行動は現在の倍以上の面積を占める大きなお堂であったことが発掘調査により判明しています。

講堂の西側には収蔵庫が立ち、ご本尊の十一面観音をはじめとする多数の什宝が納められています。

- 十一面観音立像
木造(杉)漆箔、一木造、像高350.0cm、十世紀後半、重要文化財
かつては自然木の根を利用した磐座に立っていたことから、立木仏の代表作として知られていますが、収蔵庫へ移された折に現在の台座に取り換えられています。
横長で角ばった縁取りがなされた面相部や重厚な上半身と比較してすらりとした下半身は少々バランスが悪いようにも思えますが、これは材木の制約によるものでしょうか。彫りは浅めですが、多くの渦文が刻まれた特徴的な衣文をあらわします。

- 菩薩立像
銅造、像高20.0cm、飛鳥時代(七世紀)、重要文化財
現在は奈良国立博物館に寄託されていますが、法起寺は重要文化財に指定されている仏像をもう一軀有しますのでご紹介します。
寺伝では虚空蔵菩薩と伝わりますが、腹前で宝珠を持つ菩薩は法隆寺夢殿の救世観音と同じく観音菩薩であると考えられています。左右対称のつくりや膝前でX字状に交差させて末端を鰭状に反った天衣、蕨手状の垂髪などは飛鳥時代前期の様式的特徴を示します。宝冠の形状や、頬に肉付きのある面相などは七世紀前半に活躍した止利派の金銅仏とは異なりますが、制作年代はほぼ同時期だと想定されます。
すらりとした体躯と穏やかな相貌はまさしく飛鳥時代の金銅仏といった様相で、当時の美意識が伺われるのではないでしょうか。
(以上 『なら仏像館 名品図録』より)
飛鳥建築を今に伝える三重塔

塔は石段上に立ち、形式は三間三重塔婆、高さは23.9mであり、三重塔としては国内最古の現存例です。

創建後の度重なる修理によって創建当初の意匠が不明な箇所もありますが、昭和期の解体修理の折にそれまでの研究成果を踏まえた復元がなされて現在は創建時に近い姿を取り戻しています。

法起寺三重塔は珍しい特徴を複数あらわしますが、なかでも初層と二層目が三間(一面に柱が4本あり、柱間が3つ)、三層目のみ二間(一面に柱が3本あり、柱間が2つ)という構造はほかに類を見ません。

二層目と三層目を二間とする例としては當麻寺(奈良県葛城市)の東塔が挙げられますが、三層目のみ二間とするのは法起寺三重塔だけです。

初層は中央間を板戸、その両脇間を塗壁とし、内部は中心に心柱と四天柱が立ち、須弥壇上には位牌が安置されています。

軒裏は一軒角繁垂木となっており、組物は雲肘木、円柱は中央部がわずかに膨らんだエンタシスとします。

二層目と三層目は各間を連子窓とし、高欄は卍崩しです。
秋には境内の周囲の田圃にコスモスが咲き乱れ、近年はその美しい景観が人気のスポットとなっています。本記事では11月上旬の様子をいくつか掲載します。



まとめ
飛鳥時代に建立された国内最古の三重塔を有する法起寺。往時の雰囲気を物語るのは三重塔だけではありますが、ぜひ法隆寺とともにお詣りして在りし日の姿に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
最寄り駅の「大和小泉駅」からは徒歩30分ほどです。バスをご利用の場合は、「近鉄奈良駅/JR奈良駅」など奈良市中心部の各バス停から春日大社と法隆寺を結ぶバスに乗車のうえ「法起寺前」下車、徒歩すぐです。なお、お寺には駐車場がありませんので、お車でお詣りの方は法輪寺前にある三井観光自動車駐車場(お寺から徒歩8分ほど)をご利用ください。

基本情報
- 正式名称
岡本山法起寺 - 所在地
奈良県生駒郡斑鳩町大字岡本1873 - 宗派
聖徳宗 - 指定文化財
国宝(三重塔)
重要文化財(木造十一面観音立像、銅造菩薩立像) - アクセス
- 近鉄奈良線「近鉄奈良駅」・関西本線「奈良駅」から奈良交通98系統「法隆寺前」行きで「法起寺前」下車、徒歩すぐ
- 近鉄橿原線「近鉄郡山駅」から奈良交通98系統「法隆寺前」行きで「法起寺前」下車、徒歩すぐ
- 近鉄生駒線・JR関西本線「王寺駅」から奈良交通63系統「国道横田」行きで「法起寺口」下車、徒歩約10分
- 駐車場
お寺の駐車場は無し
三井観光自動車駐車場(お寺から徒歩約8分)/約30台/無料 - 拝観時間
時期 時間 2月22日~11月3日 8:30~17:00 11月4日~2月21日 8:30~16:30 ※受付は拝観時間終了30分前まで
- 拝観料
区分 料金 高校生以上 500円
中学生 400円 小学生 300円 ※団体料金と障がい者割引は法隆寺のホームページを参照ください
- 御朱印
可/受付にて - 所要時間
約20分
参考
お寺発行の栞
奈良国立博物館. 2022.『なら仏像館 名品図録』奈良国立博物館
法隆寺のホームページ 最終アクセス2025年11月9日