


京都府木津川市、田園地帯に囲まれた小さな集落に佇む高田寺(こうでんじ)。
保安の銘と和歌の墨書が残された、定朝様を表す美しい薬師如来を詳しくご紹介します!
高田寺はこんなところ
高田寺は田園地帯に囲まれた高田の集落の中心に位置し、現在では「たかだのやくし」と呼ばれて親しまれています。今となっては本堂と庫裏が残るばかりの小さなお寺ですが、寺伝によると奈良時代の創建とされ、往時は広大な寺域を誇っていたようです。
通常本堂内の拝観には事前予約が必要ですが、木津川市が主催する春秋の文化財特別公開期間中に限り予約なしで拝観が可能です。
(詳しくは木津川市観光協会のホームページをご確認ください)

和歌の墨書が残された薬師如来と夜遊び地蔵

高田寺は集落の奥まったところにあり、いかにも村のお寺といった様相を呈します。コンパクトな境内には本堂と庫裏、鐘楼が立ち、本堂の東側に墓地が設けられています。

桁行五間・梁間四間、入母屋造の立派な本堂にはご本尊の薬師如来のほかに、二軀の阿弥陀如来や不動明王がお祀りされています。
- 薬師如来坐像
木造(檜)漆箔、寄木造、像高86cm、保安年間(1120年~1124年)、重要文化財
薬師如来は蓮華座に結跏趺坐し、穏やかで上品な顔立ちや丸みのある自然な造形は平安時代後期の作風をよく表します。ところどころに漆箔が残り、光背から台座まで当初のものが残るなど大変状態がよいことも特筆に値します。
近年の修理の折に、保安の年号(1120年~1124年)と和歌が台座裏に墨書されていることが発見されました。文字は散り散りに記されてはいるものの、著名な歌人である藤原実方による「五月やみくらはしやまのほととぎすおぼつかなくもなきわたるかな」という和歌であることが明らかになりました。
五月やみ(=五月闇)とは梅雨の時期の夜の暗さをいい、くらはしやま(=倉橋山)とは現在の音葉山(奈良県桜井市)のことを指すようです。つまり、五月闇に紛れてほととぎすがほのかに泣きながら飛んでいくといったところでしょうか。

入口の向かって右側には「夜遊び地蔵」と呼ばれるお地蔵様が鎮座します。これはこのお地蔵さまが夜遊び好きだったから名づけられたとされ、毎年8月24日にはお地蔵さまの供養と子どもの健全な成長を願って地蔵祭りがおこなわれています。
(現地案内板より)
大仏鉄道の遺構
かつて付近には加茂駅と奈良駅を結ぶ大仏鉄道が存在し、高田寺から徒歩10分ほどのところにその遺構である「観音寺橋台」と「観音寺小橋台」が残されています。


観音寺橋台は丁寧に切り揃えた石材で組まれており、廃線から120年以上経過した現在でも歪みなどは認められません。奥の橋台は関西本線のものであり、タイミングがよければ電車を入れた写真を撮影することができます。

観音寺橋台から西へ150mほどのところには観音寺小橋台がひっそりと佇みます。構造は観音寺橋台と共通であり、文字通り観音寺橋台が小型化したものといえるでしょう。
まとめ
和歌の墨書が残された定朝様の美しいご本尊がお祀りされ、静かな集落に位置する村のお寺といった佇まいが魅力的な高田寺。春秋に実施される木津川市の文化財特別公開期間中以外は本堂の拝観には事前予約が必要ですが、浄瑠璃寺や岩船寺へお詣りの際に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
公共交通機関でお越しの場合は、「JR奈良駅/近鉄奈良駅」と「JR加茂駅」を結ぶバスで「高田東口」下車、徒歩すぐです。お寺周辺の道が狭く、また駐車場は二台のみの用意のためお車でお越しの方は充分ご注意ください。

基本情報
- 正式名称
高田山高田寺 - 所在地
京都府木津川市加茂町高田奥畑54 - 宗派
高野山真言宗 - 指定文化財
重要文化財(木造薬師如来坐像) - アクセス
- JR関西本線「奈良駅」、または近鉄奈良線「近鉄奈良駅」から奈良交通バス209系統「加茂駅」行きで「高田東口」下車、徒歩約2分
- JR関西本線「加茂駅」から奈良交通バス209系統「JR奈良駅西口」行きで「高田東口」下車、徒歩約2分
- 駐車場
境内横にあり/2台/無料 - 拝観時間
境内自由/本堂内陣拝観は要予約 - 拝観料
400円 - 御朱印
可/本堂にて - 所要時間
約10分