


奈良県奈良市、「きたまち」のはずれに位置する般若寺(はんにゃじ)。
国宝楼門をはじめとする貴重な文化財を数多く有する花の寺を詳しくご紹介します!
般若寺はこんなところ
般若寺は飛鳥時代に慧灌法師によって開基されましたが、その寺名は平城京の鬼門を護るため聖武天皇が『大般若経』を基壇に納め、卒塔婆を建立したことに由来します。平安時代には学僧が集う寺として栄えましたが、治承四(1280)年の平重衡による南都焼き討ちに遭い、伽藍は灰燼に帰しました。
鎌倉時代に叡尊によって七堂伽藍が整備されるなど再興され、金堂には丈六の文殊菩薩がお祀りされました。その後は室町・戦国時代の兵火、江戸期の復興、明治の廃仏毀釈など目まぐるしく変化する時世を経て現在に至ります。
慧灌:飛鳥時代に高句麗王より来日した僧で、日本における三論宗の祖。
叡尊:真言律宗を興し、西大寺を再興した鎌倉時代の僧。

般若寺は奈良県と京都府の県境となる奈良坂に所在し、境内には本堂や楼門、十三重石宝塔が立ち、ご本尊の文殊菩薩や石宝塔から発見された納入宝物など貴重な什宝を多数有します。現在はコスモスやアジサイをはじめとする花の寺として有名であり、見頃を迎える時季には多くの参拝客で賑わいます。
例年コスモスが見頃となる10月には、石宝塔から発見された白鳳時代作の阿弥陀如来が特別に公開されます。
境内を散策する
十三重石宝塔とコスモスが彩る境内

境内の中央に聳えるのが、高さ14.2mにも及ぶ十三重石宝塔です。初代の宝塔は聖武天皇による創建と伝わりますが、現在の宝塔は良慧が勧請し、宋の石工伊行末と伊行吉の手によって建長五(1253)年頃に再建されたものです。
良慧:九条兼実の子で東大寺別当を務めた僧

宝塔の初層には薬師・釈迦・阿弥陀・弥勒如来の顕教四方仏が刻まれ、昭和39年の解体修理の折に塔内から多数の納入宝物が発見されました。

石宝塔から発見された納入品は秋季の一定期間のみ宝蔵にて公開されますが、そのうち銅造阿弥陀如来とその胎内仏をご紹介します。
- 阿弥陀如来立像
金銅造、像高40.9cm、白鳳時代 - 地蔵菩薩立像
木造素地・截金、像高8.2cm、平安時代 - 大日如来坐像
木造(檜)素地、像高2.6cm、平安時代 - 十一面観世音菩薩立像
金銅造、像高11.8cm、平安時代
(すべて重要文化財)
五重目の軸石から発見された木箱に納められていた阿弥陀如来。箱書きには「閻浮檀金ノ阿弥陀如来」とあり、聖武天皇が平城京の鬼門鎮護を祈願して奉納した霊像とされます。
頭部と手足が大きく、全体的に童子のような像容は白鳳仏の特徴をよくあらわします。微笑みを湛えた相貌や長い眉と切れ長の目、筋の通った鼻が印象的な顔立ちであり、衣文と台座に施された複連点紋や束帯にあしらわれた九曜文といった精緻な意匠も必見です。

現在宝塔が戴く相輪は三代目であり、室町時代の地震によって崩落した初代相輪が宝塔の横に安置されています。
コスモスやアジサイといった四季折々の花は般若寺の見どころの一つですが、本記事ではコスモスが見頃を迎えた11月上旬の境内の様子をいくつか掲載します。




古風な本堂とご本尊文殊菩薩

本堂は妙寂院高任・妙光院高栄の勧請によって寛文七(1667)年に再建され、前方一間の外陣を吹き放す古風な様式をあらわします。

ご本尊の文殊菩薩は堂内中央の厨子内にお祀りされ、その両脇に不動明王や弘法大師、四天王が安置されています。
- 文殊菩薩騎獅像
木造(榧)素地、一木造、像高45cm、元享四(1324)年、康俊・康成作、重要文化財
後醍醐天皇の御願成就のため、文観上人が発願し、康俊・康正や施主藤原兼光らによって元享四(1324)年に造立された文殊菩薩。かつては経蔵に安置されていたものの、鎌倉時代に造立された元のご本尊が室町時代の戦災で失われたことにより、本堂再建の折に移坐されました。
素地の檀像風に仕上げられ、衣には美しい截金文様が残されています。堂々たる体躯の獅子に騎乗しながらも、清々しい童顔や頭上に結われた八髻(頭上に8つの髷を結う)が可愛らしい仏像です。
軽快で伸びやかな楼門

文永四(1267)年に建立された国内最古の楼門であり、単独の楼門としては唯一国宝に指定されています。
(石清水八幡宮と青井阿蘇神社の楼門は建造物群として一括で国宝に指定されています)

元は境内を取り囲む回廊の西門として建立されたものの、回廊や南大門は室町期の戦乱によって焼失してしまいました。楼門は辛くも戦火を逃れ、今も京都と奈良を結ぶ京街道に面して静かに佇んでいます。

長押など和様を基調としつつも、細部に気を配ると組物など要所に大仏様の意匠を取り入れた折衷様の建築であることがわかります。


形式は一間一戸、本瓦葺、入母屋造の四脚門であり、桁行三間・梁間二間の上層に高欄付きの廻り縁を配します。


上層の軒裏は地垂木と飛燕垂木がともに角形の二軒繁垂木とし、組物は出三斗、各間に中備えとして間斗束があしらわれています。

下層はやや単調な印象ですが、冠木上に等間隔で笈形をおくことで引き締まった均整な印象を与えます。
境内をぐるりと回り込むことになりますが、ぜひ正面から眺めてその建築美をお楽しみください。
境内に点在する石造物
最後に境内に点在する石造物をいくつかご紹介します。

経堂のすぐ左手には二基の笠塔婆が鎮座します。十三重石宝塔を再建した伊行吉が父伊行末の一周忌に父母を供養するために建立し、廃仏毀釈に伴いお寺南方の墓地から現在地へ移されたそうです。

本堂を取り囲むように西国三十三所観音石仏が配されており、これは元禄十五(1702)年に自身の病気平癒の御礼として山城国の寺島氏が奉納したものです。

楼門のすぐ近くにひっそりと佇むのは平重衡の供養塔です。
南都焼き討ちを決行した平重衡は一の谷の戦い(治承四年)で捕らえられ鎌倉に送られました。平家滅亡後に南都の衆徒の要求によって南都へ護送されますが、その途上の木津川河畔にて斬首、般若寺の門前に晒されたといいます。
ちなみに、京都伏見区日野や安福寺(京都府木津川市)、高野山などにも重衡のお墓と伝えるものはあります。
まとめ
コスモスやアジサイが境内を彩る「花の寺」として有名な般若寺。国宝楼門や高々と聳える十三重石宝塔など季節の花以外にも見どころが多く、奈良に訪れた際にはぜひお詣りして欲しいお寺の一つです。
公共交通機関でお越しの場合は、「近鉄奈良駅」・「JR奈良駅」から奈良交通バス「青山住宅前」行き、または「州見台八丁目」行きで「般若寺」下車、徒歩すぐです。お寺の前には数十台駐車できる駐車場がありますが、コスモスやアジサイが見頃となる時期には満車となることもあるため注意が必要です。

基本情報
- 正式名称
法性山般若寺 - 所在地
奈良県奈良市般若寺町221 - 宗派
真言律宗 - 指定文化財
国宝(楼門)
重要文化財(十三重石宝塔、経蔵、銅造薬師如来立像、木造文殊菩薩騎獅像、笠塔婆、十三重石宝塔納入品 )
県指定文化財(本堂) - アクセス
近鉄奈良線「奈良駅」/JR関西本線「奈良駅」から奈良交通バス118系統「青山住宅前」行き、または153系統「州見台八丁目」行きで「般若寺」下車、徒歩すぐ - 駐車場
境内前にあり/数十台/500円 - 拝観時間
拝観時間 3月~6月、9月~11月 9:00 〜 17:00(最終受付16:30) 1月・2月・7月・8月・12月 9:00 ~ 16:00 - 拝観料
区分 通常時 花期(6月・10月) 大人 500円 700円 中高生 200円 300円 小学生 100円 200円 - 御朱印
可/本堂にて - 所要時間
約30分

参考
お寺発行の栞
般若寺のホームページ 最終アクセス2026年1月18日