【清雲寺(神奈川県横須賀市)】滝見観音と矢請の毘沙門天

神奈川県横須賀市 清雲寺
神奈川県横須賀市 清雲寺
神奈川県横須賀市 清雲寺

神奈川県横須賀市、三浦半島の中心、衣笠城の近くに位置する清雲寺。

南宋から伝来した滝見観音や矢請の毘沙門天を詳しくご紹介します!

清雲寺はこんなところ

清雲寺は三浦氏の菩提寺の一つであり、三浦市の本拠地であった衣笠城の近くに位置します。寺伝によると、二代当主三浦為継による創建とも、父為継の菩提を弔うために三代義継が長治元(1104)年に創建したとも伝わります。もとは天台宗でしたが、応永年間(1394年~1428年)におおしょういんによって同じく三浦氏菩提寺の旧圓通寺とともに臨済宗円覚寺派へと改められました。

現在のご本尊は明治期に合祀された、旧圓通寺伝来の観音菩薩(滝見観音)ですが、かつてのご本尊は和田合戦の折に矢を受け、和田義盛を助けたという伝承をもつ毘沙門天でした。
(『運慶 鎌倉幕府と三浦一族 』より)

なお、本堂に安置されている諸仏の拝観には事前予約が必要です。

神奈川県横須賀市 清雲寺
本堂に掛かる扁額

境内を散策する

滝見観音と矢請の毘沙門天

神奈川県横須賀市 清雲寺

お寺は衣笠城の東方に位置し、付近には四代当主三浦義明の肖像をお祀りする満昌寺や義明の末子佐原義連によって創建された満願寺など三浦氏ゆかりのお寺が点在します。

神奈川県横須賀市 清雲寺

境内の中心には本堂が西面して立ち、その左手に庫裏、背後に三浦氏三代の廟所が鎮座します。

神奈川県横須賀市 清雲寺

内陣中央に現在のご本尊である観音菩薩がお祀りされ、かつてご本尊であった毘沙門天は内陣脇檀に安置されています。

  • 観音菩薩坐像(滝見観音)
    木造(桜?)彩色、箱組式、像高61.8cm、南宋時代、重要文化財

右膝を立て左膝を垂下させたくつろいだ姿勢、通称をとり、妖艶さを漂わせる鼻筋が通った面長の相貌をあらわすなど、その作風から南宋時代に中国の江南地方で造立されたのちに請来されたと考えられています。また、作風だけではなく、構造に至るまで同時期に日本で作成された仏像とは全く異なる特徴が見られ、頭部を一材で作って内部からガラス材の瞳を嵌め込み、体部は像内に空間ができるように正面材と背面材を貼り合わせ、底板を嵌める箱組式の構造とします。

作風が類似した泉涌寺(京都府京都市)の観音菩薩坐像(楊貴妃観音)は泉涌寺の開祖しゅんじょうの弟子たんかいが寛喜二(1230)年に南宋から請来したものですが、本像も同時期に造立・請来された可能性が高いと考えられています。このことに関して、俊芿が宋から帰国後、貞応三(1224)年に三浦いえつらの要請に応じて鎌倉へ下向し、「三浦館」にて「梵字」を供養したと『泉涌寺不可棄法師殿』に記されており、本像がそのときに請来・供養されたと想定する説が存在します。
(以上『運慶と鎌倉』より)

  • 毘沙門天立像
    木造彩色・玉眼、寄木造り、像高71.7cm、鎌倉時代前期、県指定文化財

子供のような写実的な相貌や腰を捻った自然な動勢、彩色をよく留める状態のよさに特色がありますが、特に兜を脱着できる特殊な構造はその「しょうじん」性をあらわすものとして注目に値します。和田合戦の折に、矢を受けて和田義盛を助けたという説話もその生身性から生じたものでしょう。また、現在は裸足ですが、これも当初は別材の沓を履いていたと見られています。
(以上『運慶 鎌倉幕府と三浦一族 』より)

三浦氏三代の廟所

神奈川県横須賀市 清雲寺

三浦一族の廟所には初代為通、二代為継、三代義継の墓とされる五輪塔が鎮座します。中央のやや大きな五輪塔が為継のものであり、左右いずれかが旧圓通寺から移転された為通、義継のものです。

神奈川県横須賀市 清雲寺

旧圓通寺の三浦一族の墓所からは三浦九十三騎と伝えられる五輪塔も発見されており、現在は三代の五輪塔を取り囲むように左右に安置されています。

まとめ

異国風の観音菩薩やユニークな説話が伝わり、生身性をあらわした毘沙門天を有する清雲寺。仏像の拝観には事前予約が必要ですので、ご希望の方はお電話でご予約のうえお詣りください。

公共交通機関でお詣りされる場合は「横須賀中央駅」・「北久里浜駅」・「YRP野比駅」のいずれかの駅からバスでアクセスすることとなりますが、詳しくは下記基本情報をご覧ください。

神奈川県横須賀市 清雲寺
本堂横の石仏

基本情報

  • 正式名称
    大富山清雲寺
  • 所在地
    神奈川県横須賀市大矢部5-9-20
  • 宗派
    臨済宗円覚寺派
  • 指定文化財
    重要文化財(木造観音菩薩坐像)
    県指定文化財(木造毘沙門天立像)
    市指定文化財(木造地蔵菩薩坐像、石像板碑文永八年在銘)
  • アクセス
    1. 京急本線「横須賀中央駅」から京急バス須5「長井」行き、または須53「横須賀市民病院」行きで「衣笠城址」下車、徒歩約10分
    2. 京急久里浜線「北久里浜駅」から京急バス久16「YRP野比」行き、または京急バス北久14「岩戸団地循環」で「大矢部三丁目」下車、徒歩約7分
    3. 京急久里浜線「YRP野比駅」から京急バス野3「衣笠十字路」行きで「満昌寺」下車、徒歩約5分
  • 駐車場
    入口階段下(8台)・山の裏側(10台)/無料
  • 拝観時間
    境内自由
  • 拝観料
    志納
  • 御朱印
    可/庫裏にて
  • 所要時間
    約15分

 

参考
横須賀美術館・神奈川県立金沢文庫. 2022. 『運慶 鎌倉幕府と三浦一族 』 吉川弘文館
神奈川県立金沢文庫・横須賀美術館. 2024. 『運慶と鎌倉』吉川弘文館