


福井県高浜町、若狭富士の異名を持つ青葉山の東中腹に位置する中山寺(なかやまでら)。
今にも動き出しそうな秘仏ご本尊の馬頭観音や高浜湾を見下ろす明光風靡な境内を詳しくご紹介します!
中山寺はこんなところ
享禄三(807)年に記された『本堂修復勧進帳』よると、白山を開いた大徳泰澄大師が釈迦・阿弥陀・観音の三尊を本尊として大同二(807)年に創建したと伝わります。鎌倉時代の初めには、天台僧覚阿法印が馬頭観音を本尊に、寺名を一乗寺と改めて再興しました。室町時代には中山寺へ寺号を再度改め、現在に至ります。
(お寺発行のより)

福井県高浜町と京都府舞鶴市の境目に聳える青葉山。中山寺はその東中腹に位置し、高浜湾に臨みます。中山寺のご本尊は馬頭観音ですが、青葉山の西側に位置する松尾寺と中山寺の東方約10kmに位置する馬居寺も同様に馬頭観音をご本尊とし、この地域では馬頭観音が特別視されていたことが窺えます。
三軀の馬頭観音はすべて秘仏で、中山寺は33年ごと(17年に1度中開帳あり/次回開帳予定は2028年)・馬居寺は24年ごと(12年に1度中開帳あり/次回開帳予定は2026年)・松尾寺はなんと77年ごと(前回開帳は2008年10月1日~2009年10月23日)の開帳となっています。
若狭観音霊場会40周年記念法要(2022年9月18日~9月25日)を記念して特別に馬頭観音のご開帳がありましたので、当時の記録を交えながら、中山寺を詳しくご紹介します。
境内を散策する
境内は以下の通りです。

湛慶作とも伝わる金剛力士像

立派な佇まいの仁王門には湛慶作とも伝わる金剛力士像が安置されていますが、風雪をしのぐために透明な板で囲われているため、少々見づらくなっています。

- 金剛力士立像
木造彩色・玉眼、寄木造、像高282cm(阿形)・267.2cm(吽形)、鎌倉時代中期、湛慶作?、重要文化財
豊かな肉付きや力感が漲る表現、衣の造型からは東大寺や興福寺の金剛力士像と似た雰囲気が感じ取れ、慶派の作であることが窺えます。平成三年にはロンドンの大英博物館で公開され、好評を博したそうです。

仁王門を入って左手の石段を上ると中門へ、正面の石段を上ると本堂へ至ります。



中門からは高浜湾を一望できる素晴らしい景色を楽しむことができます。

境内の南側に持仏堂持と庫裏、茶室を配し、その北側に本堂が東面して立ちます。

持仏堂には寺内最古の仏像である阿弥陀如来がお祀りされています。
- 阿弥陀如来坐像
木造(檜)彩色、割矧造、像高83.7cm、平安時代後期、県指定文化財
阿弥陀如来は平安時代後期に造立されたとみられますが、当時主流であった定朝様の流れは汲まない古様な表現が散見される作風です。大きめの鼻と少し突き出た口元の表現が特徴的であり、来迎印を結び、蓮華座に結跏趺坐します。
桧皮葺の屋根が美しい本堂

本堂は康永二(1343)年に建立され、町内で唯一国の重要文化財に指定されている建築です。

全体的に和様を基調としつつも随所に大仏様の意匠を取り入れた折衷様とし、軒先の反りを伴う檜皮葺屋根が印象的です。

本堂は方五間、入母屋造のお堂であり、正面三間を蔀戸、その両脇を連子窓とし、両側面は前方から一間目を桟唐戸、二・三間目を引き違い格子戸、四・五間目を板壁とします。

軒裏は地垂木と飛燕垂木がともに角形の二軒繁垂木となっており、組物は出三斗、中備えとして間斗束があしらわれています。
堂内は格子戸で内陣と外陣、脇陣を区切る密教式仏堂の様式をあらわし、内陣の厨子内に馬頭観音、厨子の両脇に毘沙門天と不動明王がお祀りされています。
生気を発する馬頭観音

- 馬頭観音坐像
木造(檜)彩色・玉眼、寄木造、像高79.3cm、湛慶作?、鎌倉時代中期、重要文化財
馬頭観音は33年に1度(17年に1度中開帳あり)開扉される若狭地方を代表する秘仏です。普段はあまり拝する機会がありませんが、2018年に東京国立博物館で開催された「仁和寺と御室派のみほとけ ― 天平と真言密教の名宝 ―」に出展されていたので、その機会にご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
三面八臂で三眼を表す忿怒相の馬頭観音は、宝剣・斧・法輪・水瓶を持ち、人差し指と薬指を折って両手を合わせる馬口印を胸の前で結びます。宝髻・焔髪が印象的な頭上に馬を、両脇面は宝冠の上に如来坐像を戴きます。蓮華座と光背はともに当初のもので、厨子入りの秘仏であるため朱い彩色がよく残ります。
腕や胴体は細身で自然な造形となっており、衣や条帛の表現など全体的に写実的な造りとなっています。ぜひ注目いただきたいのは下半身の姿勢で、右膝を軽く浮かし、右足の親指を反らすことで、立ち上がろうとする瞬間を捉えた造形であり、坐像でありながら「動き」がよく表現されています。
- 毘沙門天立像
木造(檜)彩色、寄木造、像高127cm、慶派仏師作、鎌倉時代時代中期 - 不動明王立像
木造(檜)彩色、寄木造、像高120cm、慶派仏師作、鎌倉時代時代中期
(以上町指定文化財)
馬頭観音の両脇侍もその作風から慶派仏師の手によるものと考えられており、こちらの両像はいつでも拝観することが可能です。観音の脇侍として毘沙門天と不動明王をお祀りする形式を(比叡山)横川式といい、中山寺はかつて天台寺院であったと考えられます。
まとめ
青葉山に佇む山寺でありながら、海を見下ろす素晴らしい眺望を楽しむことができる中山寺。福井県と京都府の境目という少々不便な立地ではありますが、馬頭観音の次回開帳予定である2028年にお詣りされてはいかがでしょうか。
最寄り駅の「青郷駅」から徒歩30分ほどと少し距離があることにくわえて、山腹に位置する中山寺へは坂道を歩いて向かうことになります。また、電車の本数が少ないため、事前に電車の時間を確認したうえでお越しになることをおすすめします。お車でお越しの場合は、山の東側(高浜町立青葉総合グラウンド脇の道路)からアクセスのうえ、門前の駐車場をご利用ください。

基本情報
- 正式名称
青葉山中山寺 - 所在地
福井県大飯郡高浜町中山27-2 - 宗派
真言宗御室派 - 指定文化財
重要文化財(本堂、馬頭観音立像、金剛力士立像)
県指定文化財(絹本著色 両界種字曼荼羅図 二幅、阿弥陀如来坐像 )
町指定文化財(毘沙門天立像、不動明王立像、中山寺文書、紺紙金泥法華経) - アクセス
JR小浜線「青郷駅」から徒歩約30分 - 駐車場
境内前にあり/約10台/無料 - 拝観時間
9:00~16:00 - 拝観料
400円(秘仏公開時は500円) - 御朱印
可/寺務所にて - 所要時間
約20分

参考
お寺発行のパンフレット
中山寺ホームページ 最終アクセス2025年12月06日