


京都府木津川市、加茂町の山裾に位置する現光寺(げんこうじ)。
ご本尊の美しい十一面観音を詳しくご紹介します!
現光寺はこんなところ
創建に関しては明らかではありませんが、十一面観音の胎内から発見された文書によると、お寺は一度廃絶したものの、運松実道によって本堂を新たにして元禄十(1679)年に再興され、十一面観音にくわえて四天王像と聖徳太子像が安置されたと伝わります。
運松実道は学問や仏教教学全般に明るく、また交流関係も広かったようです。
興福寺(奈良市)や円照寺(奈良市)とつながりを持ち、大智寺(木津川市)の復興を介して後水尾天皇と東福門院とも交流がありました。
以前から海住山寺(木津川市)とは深い関りがあり、そうした歴史は文書からも伺えます。元禄十(1697)年に槙尾山西明寺(京都市)の僧によって現光寺で梵網布薩がおこなわれた折には『海住山寺縁起』の詞書の撰者である真敬法親王が参席し、貞慶五百回忌(正徳二(1712)年)に海住山寺の本堂が開帳されたときには現光寺の僧侶が参詣したようです。
(お寺発行のパンフレット・聖地南山城展の図録より)
梵網布薩:梵網経を唱え、参加した僧侶が互いに日頃の振舞いを自省する行事

現光寺は加茂町の町並みや恭仁京を見下ろす高台に位置し、海住山寺によって管理されています。通常収蔵庫の拝観には10人以上での予約が必要ですが、木津川市が主催する春と秋の文化財特別公開期間に限って予約不要で拝観することができます。
境内を散策する
境内は以下の通りです。

江戸時代に再興された本堂

かつては境内が荒れていた時期もあったようですが、現在は地元の方によって草が刈られるなど手入れが行き届いた綺麗な状態で管理されています。

本堂は再興時の元禄十(1679)年に建立されましたが、老朽化が激しいため内部は非公開となっています。

入母屋造、方三間のお堂であり、各面の中央間にのみ中備えとして間斗束があしらわれるなど装飾を最低限とするシンプルな造りです。

屋根の骨組みで一番高い部分を棟木(青の円で囲った部分)、棟木と並行な面を平、直角の面を妻といい、一般的には平側に入口を設けた平入りの建物が多いのですが、現光寺の本堂は妻側に入口を設けた妻入りとなっています。
また、面によって瓦の種類が異なる点も珍しく、平側には桟瓦を葺く一方で、妻側には本瓦を葺きます。

本堂前には鐘楼があり、かつて掛けられていた銅鐘は収蔵庫に安置されています。
美しく、みずみずしい十一面観音

壁に桐の板材が貼り付けられた木造のお堂のような収蔵庫にはご本尊をはじめ多数の宝物が安置されています。

- 十一面観音坐像
木造(檜)漆箔、寄木造、像高74cm、鎌倉時代、重要文化財
十一面観音としては珍しい坐像であり、同じく十一面観音をご本尊とする海住山寺の存在や、観音を厚く信仰し、海住山寺を補陀落山になぞらえて再興した貞慶、もしくは弟子の覚真によって補陀落山に坐す十一面観音として造立された可能性が論じられています。鷲峰山の山頂近くに立つ金胎寺(宇治田原町)には作風や構造が酷似した弥勒菩薩がお祀りされているほか、京田辺市の高ヶ峰中腹に立つ極楽寺にも作風が共通した阿弥陀如来が伝わるなど、同系統の作品がこの地域に一定の広がりを見せたことがうかがえます。
その作風から慶派仏師の手によるものと考えられており、すらりとした手足に引き締まった腰、抑揚に富んだ衣の襞など洗練された表現が特徴的です。みずみずしく、美しい仕上がりの仏像であり、切れ長の目と赤い彩色の残る唇が印象的な面相からは生気が感じられます。
像内は内刳を施して、鑿痕を丁寧にさらい、納入品が納められていた可能性もあるとか。両目の周辺に補修の痕が見られ、台座と光背は江戸時代の後補ではあるものの、頭部と上半身を中心に金箔が残り、頭上の化仏は全て当初のものが残るなど状態が良い点も特筆に値します。
- 四天王立像
木造(檜)彩色、寄木造、像高62cm~65cm、鎌倉時代
ご本尊の四方を守護する四天王は、持国・増長・広目・多聞天の彩色をそれぞれ緑・赤・白・青とするいわゆる大仏殿様の四天王(鎌倉再建期の東大寺大仏殿に安置された四天王)です。表面の彩色や截金がよく残るほか、台座の岩や邪鬼も当初のものを残します。
普段は奈良国立博物館に寄託されていますが、特別公開時のみ収蔵庫へ戻されます。
まとめ
美しく、みずみずしい十一面観音を有する現光寺。拝観できる期間や条件は限られますが、一度はお詣りしておきたいお寺です。
最寄り駅の「JR加茂駅」からは徒歩15分ほど。お寺には駐車場がないため、お車でお越しの場合は少し離れたところ(新川沿いの空き地)に駐車することになります。
また、歩いて10分ほどのところには同じく秋に特別公開が実施される旧燈明寺・御霊神社があります。
京都府木津川市、加茂駅近くの兎波(うなみ)村に位置する旧燈明寺(とうみょうじ)と御霊(ごりょう)神社。燈明寺は昭和二十七(1952)年に廃寺となってしまいましたが、収蔵庫に収められた五軀の観音像と御霊神社が[…]

基本情報
- 正式名称
覆養山現光寺 - 所在地
京都府木津川市加茂町北山ノ上9 - 宗派
真言宗智山派 - 指定文化財
重要文化財(木造十一面観音坐像) - 鉄道アクセス
JR関西本線「加茂駅」から1.1km/徒歩約15分 - 駐車場
有り/新川沿いの空き地に駐車 - 拝観時間
要予約(拝観希望者が10名以上の場合に限り、海住山寺に電話予約することで対応して頂けます)
春秋に実施される特別公開期間中は予約不要 - 拝観料
600円 - 御朱印
可/収蔵庫の拝観受付にて(特別公開期間中のみ) - 所要時間
約10分

参考
お寺発行のパンフレット
奈良国立博物館. 2018.『なら仏像館 名品図録』奈良国立博物館
奈良国立博物館. 2023.『特別展 聖地南山城 展覧会図録』奈良国立博物館