


兵庫県小野市、市街地東方の田園地帯に位置する萬勝寺。
阿弥陀堂には転法輪印を結ぶ阿弥陀如来がお祀りされています。
萬勝寺はこんなところ
播磨の地誌『峯相記』では萬勝寺のことを「加理川寺」と呼称し、法道仙人を開基とする寺として記されています。播磨地域には法道仙人の説話をもつ寺院が数多く点在しますが、そのほとんどが平安時代頃の創建とされることから、萬勝寺もその頃には創建されていたと考えられます。
(小野市公式ホームページより)

小野市は兵庫県の中南部、神戸市と姫路市のほぼ中間に位置し、快慶作の阿弥陀三尊像や大仏様の代表例である浄土堂が有名な浄土寺を有します。
萬勝寺は浄土寺の東方約5km地点に位置する小さなお寺であり、現在は塔頭の金剛院と西光院によって管理されています。
転法輪印を結ぶ阿弥陀如来

萬勝寺には門がなく、こちらの石段が境内の入口となります。

萬勝寺は標準時子午線である東経135度上に位置します。石段の右手は「小野子午線公園」という小さな広場になっており、日時計のモニュメントが設置されています。

境内の中央に本堂が南面して立ち、その西側に阿弥陀堂、東側に鐘楼、背後の高台に鎮守を配します。
本堂にはご本尊の薬師如来がお祀りされています。

日中は阿弥陀堂の正面の板戸が開扉されているため、ガラス戸越しに阿弥陀如来を拝することができます。

- 阿弥陀如来坐像
木造漆箔・玉眼、寄木造、像高145cm、鎌倉時代、県指定文化財
阿弥陀如来は胸の前で両掌を外側へ向け、第一指と第二指を捻じる転法輪印を結びます。転法輪印を結ぶ阿弥陀如来は奈良時代後期から平安時代前期と平安時代末期から鎌倉時代前期にかけて造立された例が知られており、本像もその作風から鎌倉時代前期に造立されたと想定されています。
阿弥陀如来の転法輪印にはいくつかのバリエーションが存在し、奈良時代後期から平安時代前期に造立された阿弥陀如来としては広隆寺像(京都府京都市)や興福院像(奈良県奈良市)、當麻曼荼羅原本中の阿弥陀如来(奈良県葛城市)などが有名な例として挙げられるでしょうか。広隆寺像と興福院像は第一指と第四指を胸前で左右対称に捻じ、當麻曼荼羅の阿弥陀如来は右手は掌を外側に向けて第一指と第二指を捻じますが、左手は手の甲を外側に向けて第一指と第三指・第四指を捻じます。
平安時代末期から鎌倉時代前期にかけて造立された転法輪印の阿弥陀仏として真っ先に思い浮かぶのは願成就院像(静岡県伊豆の国市)であり、指先が欠損しておりわかりづらいものの、第一指と第三指・第四指を左右対称に捻じます。そして、萬勝寺像のような第一指と第二指を左右対称に捻じる形式の阿弥陀如来は平安時代後期以降に造立されるようになったようです。

本堂背後の高台には小さな神社が鎮座し、詳細は不明なものの萬勝寺の鎮守でしょうか。

社殿は三間社流造、屋根は銅板葺と一般的な造りですが、身舎の前面に舞台を附す点が特徴的です。
まとめ
珍しい転法輪印を結ぶ阿弥陀如来がお祀りされる萬勝寺。小さなお寺ではあるものの、当寺の阿弥陀如来は播磨を代表する鎌倉仏の一軀であり、一度お詣りされてみてはいかがでしょうか。
お寺の目の前にバス停がありますが、バスは月・火・水・金のみの1日2本運行と運行本数が僅少のため、お車でのお詣りをおすすめします。

基本情報
- 正式名称
畋川山萬勝寺 - 所在地
兵庫県小野市萬勝寺町548 - 宗派
真言宗大覚寺派 - 指定文化財
県指定文化財(木造阿弥陀如来坐像) - アクセス
らんらんバス万勝寺ルート「萬勝寺」下車、徒歩すぐ
(月、火、水、金のみ1日2本の運行) - 駐車場
金剛院の前にあり/約8台/無料 - 拝観時間
境内自由 - 御朱印
可/金剛院にて - 所要時間
約15分
参考
小野市公式サイト 最終アクセス2024年7月21日
北澤菜月「第一・二指を捻じる転法輪印阿弥陀如来像について」
兵庫県立歴史博物館. 1991.『特別展 ふるさとのみほとけー播磨の仏像 展覧会図録』