【興善寺(奈良県奈良市)】源空自筆の消息と阿弥陀如来

奈良県奈良市 興善寺
奈良県奈良市 興善寺
奈良県奈良市 興善寺 阿弥陀如来

奈良県奈良市、ならまちの一角に立つこうぜん

ご本尊である阿弥陀如来の胎内からは源空自筆の消息(書状)が発見されました。

興善寺はこんなところ

かつての興善寺は十輪院と同様に元興寺の子院であり、それぞれ「奥の寺」と「奥の寺」と呼称されていたようです。

ときは流れて天正年間(1573年~1592年)に慶誉上人が興善寺を訪れます。上人は石仏の前で念仏を唱え、民衆に念仏の教えを説き広めました。上人の活動によって日に日に信者が集まり、ついには天正十七(1589)年に本堂の再建を果たします。このとき快慶作と伝わる阿弥陀如来を東山田原(現奈良市都祁)の阿弥陀堂よりご本尊として迎え、浄土宗寺院として独立することとなりました。
(浄土宗新聞より)

奈良県奈良市 興善寺
観音堂

興善寺はならまちのほぼ中心に該当する十輪院町に所在し、かつての本寺である元興寺のすぐ南に位置します。付近は十輪院や法徳寺、金躰寺など多くのお寺が軒を連ね、ならまちの中でも特に雰囲気がよいエリアではないでしょうか。

なお、興善寺は観光寺院ではありませんので、阿弥陀如来の拝観には事前予約が必要です。

源空自筆の消息と阿弥陀如来

奈良県奈良市 興善寺

興善寺は十輪院と隣接し、十輪院の東側に表門を構えます。

奈良県奈良市 興善寺
境内の様子(十輪院より)

コンパクトな境内には本堂と観音堂、位牌堂が立ち、境内の南側は墓地となっています。

奈良県奈良市 興善寺

本堂内陣には快慶作と伝わるご本尊の阿弥陀如来がお祀りされています。

奈良県奈良市 興善寺 阿弥陀如来
  • 阿弥陀如来立像
    木造金泥・彩色・玉眼、寄木造、像高約90cm、鎌倉時代前期、重要文化財

寺伝では東山田原(現奈良市都祁)の阿弥陀堂より移されたと伝わりますが、最新の研究ではさらに東の柘植(三重県伊賀市)あたりから迎えられたことが明らかになっています。

優しい相貌をあらわす優美な作風の仏像であり、来迎印を結び、踏割蓮華座にすらりと直立します。胎内からは骨蔵器や袋、文書など多数の納入品が発見されており、そのうちの一部が源空や証空自筆の書状です。

奈良県奈良市 興善寺 阿弥陀如来

宛名には「しょうぎょうぼう」という人物の名が見られ、書状はすべて同人に関連するものと考えられています。紙背はおよそ千五百人に及ぶ記名と骨蔵器の金泥書から、これらを納めた阿弥陀如来は父母の供養のため、正行房が結縁者を募り造立したことがわかります。

これまで正行房は『法然上人絵伝』巻十一に九条兼実との特別な関係を諫めた人物として登場するほか、詳細は不明でした。しかし、一連の書状により、どうやら南都に住んでいたこと、証空や親蓮といった源空の門弟たちとも関係があったことが明らかになりました。
(以上 『特別展 法然と極楽浄土 展覧会図録』 より)

また、ご住職から書状の発見に至る興味深いエピソードをお伺いしましたのでご紹介します。

昭和三十七年に仏師の太田古朴氏が興善寺を訪れ、仏師の感でしょうか「阿弥陀如来に何か特別なものを感じるため、胎内を調査させてほしい」と当時のご住職に申し出たそうです。ご住職は当初「ご本尊の調査などもってのほか」と調査を許さなかったそうですが、太田氏があまりに熱心にお願いしたこと、また仏像の傷みが酷く修理が必要であったことから修理を条件に調査の許可を出しました。その後、胎内から源空自筆の消息が発見されたことは先に記した通りです。

奈良県奈良市 興善寺

中興の祖慶誉上人がその御前で念仏を唱えたと伝わる石仏は位牌堂にお祀りされています。石仏は「弥陀・観音・地蔵」を一つの光背に三軀並んだ通称一光三尊形式で彫り出されており、鎌倉時代の作と伝わります。

まとめ

源空や証空自筆の書状と優美な阿弥陀如来を有する興善寺。書状の実物は京都国立博物館に寄託されていますが、お寺では複製が展示されています。本堂内の拝観には事前予約が必要ですので、ご希望の方はお電話でご予約のうえお詣りください。

最寄り駅の「近鉄奈良駅」からは徒歩18分ほどです。バスをご利用の場合は、「近鉄奈良駅/JR奈良駅」から「天理」行きまたは「下山」行きで「福智院町」下車、徒歩5分ほどです。

奈良県奈良市 興善寺
井戸

基本情報

  • 正式名称
    法輪山興善寺
  • 所在地
    奈良県奈良市十輪院畑町12
  • 宗派
    浄土宗
  • 指定文化財
    重要文化財(源空、証空等自筆消息 附木造阿弥陀如来立像、漆塗筒形納骨器)
  •  アクセス
    1. 近鉄奈良線「近鉄奈良駅」から1.3km/徒歩約18分
    2. JR関西本線「奈良駅」・近鉄奈良線「近鉄奈良駅」から奈良交通バス「天理」行き、または「下山」行きで「福智院町」下車、徒歩5分
  • 駐車場
    境内前にあり/約15台/無料
  • 拝観時間
    境内自由/本堂内陣拝観は要予約
  • 拝観料
    志納
  • 御朱印
    可/庫裏にて
  • 所要時間
    約15分

 

参考
浄土宗新聞 平成20年3月1日、平成20年4月1日
東京国立博物館、京都国立博物館、九州国立博物館、NHK、NHKプロモーション. 2024.『特別展 法然と極楽浄土 展覧会図録』NHEK、NEKプロモーション、読売新聞社
1089ブログ 最終アクセス2025年2月2日