【旧燈明寺・御霊神社（京都府木津川市）】五観音に往時を偲ぶ

2022年7月12日
2024年5月29日
南山城の社寺
南山城三十三所観音霊場

京都府木津川市、加茂町の山裾に位置する旧燈とう明みょう寺と御ご霊りょう神社。

燈明寺は昭和二十七年（1952）に廃寺となってしまいましたが、収蔵庫に収められた五軀の観音像と御霊神社が当時の面影を残します。

本記事では、三渓園に移築された本堂・三重塔も併せて紹介します。

1 燈明寺はこんなところ
2 境内
3 本堂・三重塔（三渓園）
- 3.1 創建当初の姿に復元された本堂
- 3.2 関東最古の塔
4 まとめ
5 基本情報（旧燈明寺・御霊神社）
6 基本情報（三渓園）

燈明寺はこんなところ

燈明寺は奈良時代に行基によって開かれたとも、平安時代に弘法大師の弟子真暁によって開かれたとも伝わります。一時荒廃しましたが、康正二年（1456）に天台僧賢昌房忍禅によって、本堂・三重塔が建立されるなどの整備がなされました。

寛文三年（1663）頃には村の領主である津藩主藤堂家の助力を得て、本圀寺の僧日便が再び荒廃していた燈明寺を再興します。現在も境内に残る庫裡や鐘楼は、このときに建立されたものです。

明治以降は次第に寺勢が衰え、大正三年（1914）に三重塔が三渓園に移築され、昭和二十七年（1952）に廃寺となります。廃寺後には本堂も三渓園に移築され、現在も当地で見学できます。
（川合京都仏教美術財団発行のパンフレットより）

旧燈明寺は、開発が進む加茂駅周辺からは少し離れた静かな山裾に位置します。現在は御霊神社・庫裡・鐘楼を残すのみですが、収蔵庫に安置される五観音像や本堂跡からはかつての隆盛が偲ばれます。

収蔵庫は年に一度（文化の日を含めた数日間）拝観することができます。

境内

境内は以下の通りです。

復元された参道を歩いて境内へ

加茂駅からしばらく歩くと、立派な参道と石鳥居に至ります。

こちらの参道と石鳥居は近年復元されたもので、かつては参道の両脇は田んぼだったそう。

復元された参道は御霊神社までは続いていませんが、真っすぐ歩くと間もなく神社が見えてきます。

こちらの階段を上ると旧燈明寺境内です。

在りし日の面影を残す境内

こちらが旧燈明寺の現況。社務所を中心に収蔵庫や御霊神社があって、神社脇の坂道を登ったところが三重塔跡になっています。

廃寺というと荒れ果てた境内を想像されるかもしれませんが、とても綺麗な状態で管理されています。

境内端に位置する庫裡は寛文十二年（1672）に建てられたものですが、内部の老朽化が激しいらしく公開はされていません。

本堂跡には、収蔵庫・鐘楼・石燈籠・石造十三重塔が立てられています。

梵鐘は住職日進と檀家の協力によって貞享五年（1688）に鋳造されたものです。隣にある十三重石塔は鎌倉時代のもの。

かつては鎌倉時代作の石燈籠がありましたが、大破した本堂の修復費用を賄うため享保十二年（1727）に三井家へ売却されました。後に三井家から寄贈され、現在は真正極楽寺（京都市左京区）にあります。

現在燈明寺にあるこちらの燈籠はその模作です。

かつて三重塔が立っていた場所には礎石ひとつ残っておらず、当時の面影はありません。

五観音に往時を偲ぶ

川合京都仏教美術財団によって管理されている収蔵庫には、五観音像や燈明寺縁起、瓦などの文化財が収蔵されています。

千手観音立像
木造（桧）漆箔、一木造、像高172cm、鎌倉時代後半頃
十一面観音菩薩立像
木造（桧）素地、寄木造、像高182cm、徳治三年（1308）頃
不空羂索観音立像
木造（桧）素地、寄木造、像高180cm、徳治三年
聖観音立像
木造（桧）素地、寄木造、像高109cm、鎌倉時代後半頃
馬頭観音立像
木造（桧）素地、寄木造、像高111cm、鎌倉時代後半頃
（全て京都府指定文化財）

かつては現存する五観音に如意輪観音を加えた六観音として祀られていたと考えられますが、如意輪観音の消息は不明です。

五観音像には衣の表現や全体的な雰囲気に共通点がみられる一方で、異なる点も少なくありません。かつて本尊であった千手観音は、すらりとした細身で流麗な佇まいで、馬頭観音を除いた他の三軀と同じく切れ長で細い目をしており非常に落ち着いた印象を受けました。

他の四軀とは異なり、丸みを帯びたふくよかな造形が特徴的な不空羂索観音は、納入品から一日で造立されたことが判明しています。

また、ほぼ等身大の千手観音・十一面観音・不空羂索観音に対して、聖観音・馬頭観音は110cmほどの小像となっています。

鮮やかな朱色が美しい御霊神社

かつて燈明寺の鎮守社として建立された御霊神社ですが、燈明寺が廃寺となったため現在は兎並の産土神としてお祀りされています。重要文化財に指定されている本殿と4つの摂社が残り、鮮やかな朱色と背後の森が調和してとてもいい感じ。

桧皮ひわだ葺ぶき三間社流ながれ造づくりの本殿は氷室神社（奈良市）の古社殿を移築したものと伝わり、南北朝時代に建造されたものです。平成九年に実施された修理で、屋根の葺き替えと丹塗りが行われました。

祭神は桓武天皇の弟崇道天皇をはじめとして、井上内親王・他戸おさべ親王・藤原吉子・文ぶん屋やの宮みや田た麻ま呂ろ・橘たちばなの逸はや勢なり・吉備きびの真備まきび・火ほの雷いかずちの神かみとされています。

本殿両脇の板障子には、それぞれ「納な曽そ利り」の舞（左側）・「蘭らん陵りょう王おう」の舞（右側）が描かれています。古来から御霊会では、怨霊を慰撫するため相撲などが神事として催されました。相撲の勝負の後には勝負舞と称される舞が行われましたが、その際左の力士が勝ったときは「納曽利」の舞が、右の力士が勝った時は「蘭陵王」の舞が舞われたそうです。
（神社で配布されていた資料より）

裏側には力士が描かれています。

本堂・三重塔（三渓園）

横浜市の三渓園に移築された本堂と三重塔は、ともに重要文化財に指定されています。

創建当初の姿に復元された本堂

桁行五間・梁間六間、本瓦葺入母屋造の本堂は、康正二年（1456）に賢昌房忍禅によって建立されました。一間の向こう拝はい（本堂前面の張り出した部分）が附され、正面三間が桟さん唐から戸と・その両脇が連れん子じ窓まどで、中備えには間けん斗と束づかが使われています。

幾度かの修復を経て昭和中頃までは現存した本堂ですが、昭和二十三年（1948）の暴風雨によって大破・解体されます。暫くは現地で部材が保管されていましたが、三渓園に移築・修復され、現在に至ります。

内陣と外陣を格子窓で区切る密教式の本堂で、須しゅ弥み壇だん上には十一面観音のレプリカが安置されています。内部に立ち入ることはできませんが、扉が開かれているため内陣までよく見学できます。

このように梁や柱からは年季が感じられますが、大破・解体されていたとは思えない綺麗な状態です。

本堂には面白い来歴があるため、紹介したいと思います。

西暦	事項
1948	暴風雨により本堂が大破、解体される
1950	本堂が重要文化財に指定される
1982	本堂部材等を三渓園に移す
1987	修復が完了し竣工

出典：川合京都仏教美術財団のHPを参考に筆者作成

解体された本堂の部材がどのような状態で保管されていたかはわかりませんが、約40年にわたってお堂としては現存していないにも関わらず重要文化財に登録されていたことがわかります。こういった例はあまり聞いたことがなく、非常に珍しいのではないでしょうか。