奈良県奈良市、その名を冠する福智院町に位置する福智院。
立派な本堂には「地蔵大佛」と称される大きな地蔵菩薩がお祀りされています。
福智院はこんなところ
玄昉によって前身となる清水寺が創建されたと伝わり、現在も近隣には「清水」という地名が残ります。その後、清水寺は一時的に荒廃しますが、建長六(1254)年に興福寺大乗院実信僧正によって福智院として再興されました。
現在本尊としてお祀りされている地蔵菩薩は、建仁三(1203)年に福智庄で造立されたのちに、叡尊によって現在地に移されたそうです。福智庄は現在の奈良市狭川町にあたり、柳生の里の北に位置します。
玄昉:聖武天皇の時代に橘諸兄政権を支えた法相宗の僧。藤原仲麻呂の台頭によって権勢を失い、最後は観世音寺(福岡県太宰府市)に左遷されました。
叡尊:真言律宗を興し、西大寺を再興した鎌倉時代の僧。
福智院はならまちの一角、興福寺や奈良国立博物館のあるエリアから南へ10分ほど歩いた福智院町に位置します。かつては広大な寺域を誇ったとの記録もありますが、現在はこじんまりとした境内に本堂と多数の地蔵石仏を残すのみとなっています。
本尊の地蔵菩薩は常時拝観可能ですが、秘仏宝冠十一面観音は春季(3月17日 ~ 3月23日)と秋季(10月17日 ~ 10月23日・11月1日 ~ 11月7日)に開扉されます。
本記事では、お寺の方にお伺いした縁起や地蔵菩薩にまつわる話を交えながら福智院について詳しくご紹介します。
境内を散策する
様々な姿かたちのお地蔵さま
福智院は細い路地が入り組んだ住宅地に所在し、黄色い土塀と立派な本堂が目を引きます。
門を入ってすぐ左手の小さなお堂には不動明王と毘沙門天を従え、甲冑を身に着けて馬に騎乗する珍しいお姿の「勝軍地蔵尊」がお祀りされています。
お地蔵さまのお寺らしく、境内のいたるところにバリエーション豊かなお地蔵さまが点在しています。
蔀戸が印象的な本堂と大きな「地蔵大佛」
前面の蔀戸が印象的な本堂(重要文化財)は、建長六(1254)年に建立されました。
現在の状態からは想像もつきませんが、福智院は廃仏毀釈後に無住の時期があり、屋根に穴があくなど大きな損傷を受けたこともあったとお寺の方に伺いました。
本堂は本瓦葺、寄棟造の建物で、正面四間を蔀戸、右側の二間目の引き戸を除き両側面を左右対称に造り、組物は簡素な大斗肘木とします。
外観からは二層構造のように見える本堂ですが、方二間のお堂に方四間の裳階と呼ばれる装飾を廻した天井の高い単層となっています。大きな地蔵菩薩に合わせて、このような構造になったのでしょう。
ご本尊の地蔵菩薩は堂内中央の須弥壇上にお祀りされ、すぐそばまで寄って拝観することができます。また、後陣にはたくさんの小さな仏さまが安置されていますので、ぜひそちらもご覧ください。
- 地蔵菩薩坐像
木造(桧)彩色、寄木造、像高273cm、総高660cm、鎌倉時代、重要文化財
第一印象は大きく、そして重厚感がある仏像といった地蔵菩薩ですが、細部までじっくり眺めてみると、ただ大きいだけの仏像ではないことに気が付かれるかと思います。地蔵菩薩は四角い裳懸座に安座(いわゆる胡坐のこと)しますが、これはあえて足を崩すことで、人々を救うために今まさに立ち上がろうとしている様子を表現しているそうです。よく見ると右足の親指は僅かに反っており、こうした細部まで動きを表す造りになっていることがわかります。
また調査によって、かつて衣には朱い彩色がなされていたことが判明し、後陣のガラスケース内に模様の一部を再現した絵画が展示されています。
地蔵菩薩よりもさらに一回り大きい光背も非常に凝った造りとなっており、ぜひとも注目いただきたいポイントです。
高さ4.95mの二重円相光背には560軀の小さな地蔵菩薩と二重円相の頂上に釈迦如来、左右に3軀ずつ地蔵菩薩(六地蔵)、その下に左右1軀ずつ冥官坐像が配されています。釈迦滅後56億7千万年後に弥勒菩薩が下生するといいますが、地蔵菩薩の合計数(本尊(1軀)+小さな地蔵菩薩(560軀)+六地蔵(6軀)=567軀)は、この年数に符合します。
お寺の方によると、10年ほど前に偶然参拝された大英博物館の関係者が本像をとても気に入り、イギリスに持ち帰って展示できないかと住職に持ちかけたそうです。その大きさ故に大英博物館での展示は叶いませんでしたが、地蔵菩薩の魅力が伝わるお話かと思います。
- 宝冠十一面観音立像
木造彩色、像高約90cm、南北朝時代
本堂内には地蔵菩薩のほかにもたくさんの仏像がお祀りされていますが、そのうち宝冠十一面観音をご紹介します。
その名が示す通り頭上に宝冠を戴く十一面観音であり、もとは伊勢の裏鬼門を守っていましたが、廃仏毀釈を契機とした紆余曲折の末に客仏として福智院にお祀りされることになりました(祈りの回廊HPより)。穏やかに微笑みを浮かべた面相とすらりとした細身の立ち姿が魅力的な仏さまです。
まとめ
重量感たっぷりの迫力ある地蔵菩薩がお祀りされ、ほかにも境内に様々なお姿のお地蔵さまがいらっしゃる福智院。春季・秋季の特別公開期間中に訪れて、秘仏である宝冠十一面観音像もあわせてご覧になることをおすすめします。また、季節によってデザインが変化する絵入りのユニークな御朱印も福智院の魅力のひとつ。御朱印を集めている方はぜひチェックしてみてください!
最寄り駅の「近鉄奈良駅」からは徒歩17分ほどです。バスをご利用の場合は、「近鉄奈良駅/JR奈良駅」から「天理」行きまたは「下山」行きにご乗車のうえ「福智院町」で下車、徒歩すぐです。
なお、福智院には駐車場がありませんので、お車でお越しの方は近隣のコインパーキングをご利用ください。
基本情報
- 正式名称
清冷山福智院 - 所在地
奈良県奈良市福智院町46 - 宗派
真言律宗 - 文化財指定
重要文化財(本堂、木造地蔵菩薩坐像) - アクセス
- 近鉄奈良線「近鉄奈良駅」から1.4km/徒歩約17分
- JR関西本線「奈良駅」・「近鉄奈良駅」から奈良交通バス「天理行き」または「下山行き」で「福智院町」下車、徒歩すぐ
- 駐車場
無し/近隣の駐車場をご利用ください - 拝観時間
9時~16時30分 - 拝観料
500円(特別拝観時は600円) - 御朱印
可/受付にて - 所要時間
約15分
参考
お寺発行のパンフレット