


奈良県奈良市、ならまちの一角に位置する十輪院(じゅうりんいん)。
国宝本堂や石仏龕(せきぶつがん)を詳しくご紹介します!
十輪院はこんなところ
十輪院はならまちのほぼ中心に位置し、かつては元興寺の子院の一つでした。寺伝によると、朝野魚養や空海、聖宝による開基と伝わりますが、実際は『沙石集』などの記述から鎌倉時代のはじめ、中世庶民信仰を担って寺観が整えられたと考えられています。
その後室町時代の兵乱で多くの寺宝を失いましたが、徳川幕府の援助を受けて再興を果たしました。なお、寺号の十輪院は地蔵経典である「地蔵十輪経」に由来します。
(お寺発行の冊子より)
朝野魚養:吉備真備と唐の女性との間に生まれ、父を慕って魚に助けられて海を渡って日本にやってきたと伝わる
聖宝:空海の実弟真雅の弟子であり、醍醐寺(京都市)・真言宗小野流の開祖
沙石集:鎌倉時代後期に成立した仏教説話集

境内を散策する
コンパクトながら見どころが多い境内

南門は本瓦葺、切妻造の四脚門であり、本堂と同じく板軒とすることから鎌倉時代前期に建立されたと推定されています。

一見通例の四脚門に感じられますが、控え柱の四方転びや軒先から棟木まで一枚の板をかけ渡した板軒とするなど珍しい特徴も見られます。

境内の中央に本堂が南面して立ち、その東側に御影堂と庭園、西側に護摩堂と庫裏を配します。

庫裏の北側には全長2.7mにも及ぶ大きな石棺が鎮座します。こちらの石棺はお寺の西方の平塚古墳付近にて発見され、表面に残る凹凸は草刈を行う付近の住民が鎌を研いだ痕だといわれています。
- 不動明王立像及矜羯羅童子・制多迦童子
木造(檜)彩色・截金、(不動明王)寄木造・(二童子)割矧造、像高(不動明王)98.0cm・(二童子像)約45cm、平安時代後期、重要文化財
寺伝によると智証大師の作と伝わり、普段は非公開となっていますが、毎月28日(8月・12月は非公開)の護摩祈祷の折に開扉され、拝観することができます。
不動明王は莎髻を結い、髪を巻髪とし、左肩に弁髪を垂らします。左目を細め、牙を見せて唇を噛む忿怒相でありながら、やや穏やかな相貌をあらわすのは平安時代後期の明王像の特徴です。右手に剣、左手に羂索を持ち、左右に二童子を従えて岩座上に直立しますが、左右の二童子も動勢がよく捉えられ、写実的で素晴らしい出来栄えです。




本堂と護摩堂のほかにも見どころはたくさんありますので、ぜひ隅々までご覧になってください。
国宝本堂と石仏龕

本堂はその後方に位置する石仏龕を拝むための礼堂として鎌倉時代前期に建立され、石仏龕の覆屋は慶長十八(1613)年に建て替えられています。
昭和期に実施された解体修理で建立当初の姿が復元され、本堂と覆屋との間の「合の間」は大きくされました。

前方一間を吹き放し、正面の蔀戸を吊り上げて外部からも石仏が拝めるように造られています。

桁行五間・梁間四間、本瓦葺、寄棟造のお堂であり、正面三間を蔀戸、その両脇を連子窓とし、両側面には引き戸を設けます。

東北隅に正式な出入り口を置き、軒や屋根は反りの少ない直線的な造りとして高さが低い本堂のバランスを取っています。

軒裏は板軒を平三斗から肘木を伸ばした特徴的な組物で支え、中備えとして間斗束があしらわれています。
- 石仏龕
石造(花崗岩)彩色、龕高242.5cm、鎌倉時代、重要文化財
龕の内側から外側にかけてたくさんの石仏が浮彫、ないし線刻され、石仏としては珍しく彩色されています。龕の内側中央にご本尊の地蔵菩薩、その前方左右の角石に釈迦如来と弥勒菩薩が浮彫され、この三尊で釈迦滅後、弥勒の出生までの無仏時代に合って衆生を救うという地蔵菩薩の誓願を意味するそうです。
とりわけ地蔵菩薩は六道の巷に出入できる唯一の仏であり、堕地獄の亡者を救済することから中世以来信仰が深まり、『沙石集』に福智院や知足院(ともに奈良市)とともに十輪院の地蔵菩薩が南都の著名地蔵として取り上げられています。
龕には三尊のほかにも地獄の冥官である十王や四天王、金剛力士などの石仏や五輪塔、種字が刻まれています。
(お寺発行の冊子より)
まとめ
たくさんの仏像が刻まれた石仏龕がお祀りされ、その礼堂である国宝本堂が今に伝わる十輪院。随時拝観対応をされてはいますが、お寺の都合によっては拝観できない場合もあるとのことなので、事前にご予約のうえお詣りされることをおすすめいたします。また、不動明王は護摩祈祷が行われる毎月28日(8月・12月を除く)のみ拝観することができます。
最寄り駅の「近鉄奈良駅」からは徒歩20分ほどです。バスをご利用の場合は、「近鉄奈良駅/JR奈良駅」から「天理」行きまたは「下山」行きで「福智院町」下車、徒歩約3分です。
また、付近にはたくさんの寺社が点在していますので、十輪院だけではなくぜひならまちの寺社を巡ってみてください。
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基本情報
- 正式名称
雨宝山十輪院 - 所在地
奈良県奈良市十輪院町27 - 宗派
真言醍醐派 - 指定文化財
国宝(本堂)
重要文化財(南門、石仏龕、木造不動明王二童子立像)
県指定文化財(御影堂、絹本著色阿弥陀浄土図、多宝塔)
市指定文化財(銅像誕生釈迦仏立像、絹本著色尊勝曼荼羅図、絹本著色十六羅漢図像、興福寺曼荼羅石) - アクセス
- 近鉄奈良線「奈良駅」から1.3km/徒歩約20分
- JR関西本線「奈良駅」・「近鉄奈良駅」から奈良交通バス「天理」行き、または「下山」行きで「福智院町」下車、徒歩約3分
- 「JR奈良駅」から奈良交通バス「市内循環内回り」で「田中町」下車、徒歩約3分
- 駐車場
門前にあり/10台/無料 - 拝観時間
10:00~16:30時間 通常拝観 10:00~16:30 朝勤行 8:30~9:20頃 ※月曜日(祝日の場合は火曜日)、12/28〜1/5、1/27〜28、7/31〜8/31は拝観不可
- 拝観料
区分 高校生以上 500円 中学生 300円 小学生 200円
※団体(50名以上の場合は一割引)、障碍者手帳提示で本人と介助者一名まで半額 - 御朱印
可/庫裏にて - 所要時間
20分

参考
お寺発行の栞・冊子